な鶯よ!
おゝ悲しや、彼は逃げ去れり
嗚呼是れも亦た浮世の動物なり。
若し我妻ならば、何《な》ど逃《にげ》去らん!
余を再び此寂寥《せきりよう》に打ち捨てゝ、
この惨憺たる墓所《はかしよ》に残して
――暗らき、空しき墓所《はかしよ》――
其処《そこ》には腐《くさ》れたる空気、
湿《しめ》りたる床《ゆか》のいと冷たき、
余は爰《ここ》を墓所と定めたり、
生《いき》ながら既に葬られたればなり。
死や、汝何時《いつ》来《きた》る?
永く待たすなよ、待つ人を、
余は汝に犯せる罪のなき者を!
第十六
鶯は余を捨てゝ去り
余は更に怏鬱《おううつ》に沈みたり、
春は都に如何なるや?
確かに、都は今が花なり!
斯《か》く余が想像《おもい》中央《なかば》に
久し振にて獄吏は入り来れり。
遂に余は放《ゆる》されて、
大赦《たいしや》の大慈《めぐみ》を感謝せり
門を出《いづ》れば、多くの朋友、
集《つど》ひ、余を迎へ来れり、
中にも余が最愛の花嫁は、
走り来りて余の手を握りたり、
彼れが眼《め》にも余が眼にも同じ涙――
又た多数の朋友は喜んで踏舞せり、
先きの可愛《かわ》ゆき
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