ぐら》に急ぐ烏《からす》の声、
兎《と》は言へ其形……想像の外《ほか》には曽《か》つて見ざりし。
ひと宵《よい》余は早くより木の枕を
窓下《そうか》に推《お》し当て、眠りの神を
祈れども、まだこの疲れたる脳は安《やすま》らず、
 半分《なかば》眠り――且つ死し、なほ半分は
生きてあり、――とは願はぬものを。
突如窓《まど》を叩《たた》いて余が霊を呼ぶ者あり
あやにく余は過《すぎ》にし花嫁を思出《おもいいで》たり、
弱き腰を引立て、窓に飛上らんと企てしに、
こは如何に! 何者……余が顔を撃《うち》たり!
計らざりき、幾年月の久しきに、
始めて世界の生物《せいぶつ》が見舞ひ来れり。
彼は獄舎の中を狭しと思はず、
梁《はり》の上梁の下俯仰《ふぎよう》自由に羽《は》を伸ばす、
能《よ》き友なりや、こは太陽に嫌はれし蝙蝠《こうもり》、
我《わが》無聊《ぶりよう》を訪《たずね》来れり、獄舎の中を厭《いと》はず、
想《おも》ひ見る! 此は我花嫁の化身《けしん》ならずや
嗚呼約せし事望みし事は遂に来らず、
忌《いま》はしき形を仮《か》りて、我を慕ひ来《く》るとは!
ても可憐《あわれ》な! 余は蝙蝠を去
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