らしめず。

   第十二
余には穢《きた》なき衣類のみなれば、
是を脱ぎ、蝙蝠《こうもり》に投げ与ふれば、
彼は喜びて衣類と共に床《ゆか》に落《おち》たり、
余ははひ寄りて是を抑《おさ》ゆれば、
蝙蝠は泣けり、サモ悲しき声にて、
何《な》ぜなれば、彼はなほ自由を持つ身なれば、
恐るゝな! 捕ふる人は自由を失ひたれ、
卿《おんみ》を捕ふるに……野心は絶えて無ければ。
嗚呼! 是《こ》は一の蝙蝠!
余が花嫁は斯《かか》る悪《に》くき顔にては!
左《さ》れど余は彼を逃げ去らしめず、
何《な》ぜ……此生物は余が友となり得れば、
好し……暫時《しばし》獄中に留め置かんに、
左れど如何にせん? 彼を留め置くには?
吾に力なきか、此一獣を留置くにさへ?
傷《いた》ましや! なほ自由あり、此獣《けもの》には。
   余は彼を放ちやれり、
   自由の獣……彼は喜んで、
   疾《と》く獄窓を逃げ出たり。

[#以下、「次ぎの…」から「…困ります。」までは罫線囲み]
次ぎの画《え》は甚しき失策でありました、是れでも著名なる画家と熱心なる彫刻師との手に成りたる者です。野辺の夕景色としか見えませぬが、獄舎
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