ふ》せしめて、其処に大自在の風雅と逍遙せしむべし。彼の物質的論家の如きは、世界を狭少なる家屋となして、其家屋の内部を整頓するの外には一世の能事なしとし、甘《あまん》じて爰に起臥せんとす、而して風雨の外より犯す時、雷電の上より襲ふ時、慄然として恐怖するを以て自らの運命とあきらめんとす。霊性的の道念に逍遙するものは、世界を世界大の物と認むることを知る、而して世界大の世界を以て、甘心自足すべき住宅とは認めざるなり、世界大の世界を離れて、大大大の実在《リアリチイ》を現象世界以外に求むるにあらずんば、止まざるなり。物質的英雄が明|晃々《くわう/\》たる利剣を揮つて、狭少なる家屋の中に仇敵と接戦する間に、彼は大自在の妙機を懐にして無言坐するなり。
 悲しき Limit は人間の四面に鉄壁を設けて、人間をして、或る卑野なる生涯を脱すること能はざらしむ。鵬《おほとり》の大を以てしても蜩《せみ》の小を以てしても、同じくこの限[#「限」に傍点]を破ること能はざるなり。而して蜩の小を以て自らその小を知らず、鵬の大を以て自ら其の大を知らず、同じく限[#「限」に傍点]に縛せらるゝを知らず欣然として自足するは、憫
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