りて、絶対的の物[#「絶対的の物」に傍点]、即ち Idea にまで達したるなり。
 彼は事実の世界を忘れたるにあらず、池をめぐりて両三回するは実[#「実」に白丸傍点]を見貫く心ありてなり、実[#「実」に白丸傍点]は自然の一側なり、而して実[#「実」に白丸傍点]を照らすものも亦た自然の他の一側なり、実[#「実」に白丸傍点]は吾人の敵となりて、吾人に迫ることを為せども、他の一側なる虚[#「虚」に白丸傍点]は、吾人の好友となりて、吾人を導きて天涯にまで上らしむるなり、池面にうつり出たる団々たる明月は、彼をして力としての自然を後《しり》へに見て、一躍して美妙なる自然に進み入らしめたり。
 サブライムとは形[#「形」に白丸傍点]の判断にあらずして、想[#「想」に白丸傍点]の領分なり、即ち前に云ひたる池をめぐりてよもすがらせる如き人の、一躍して自然の懐裡に入りたる後に、彼処《かしこ》にて見出すべき朋友を言ふなり。この至真至誠なる朋友を得て、而して後、夜を徹するまで池をめぐるの味あるなり。池をめぐるは Nothingness をめぐるにあらず、この世ならぬ朋友と共に、逍遙遊するを楽しむ為にするなり。
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