るが為に心健かならざるもの多ければ、常に健やかなるものゝ十日二十日病床に臥すは、左まで恨むべき事にあらず、況《ま》してこの秋の物色《けしき》に対して、命運を学ぶにこよなき便《よすが》あるをや。斯《か》く我は真意《まごゝろ》を以て微恙《びやう》ある友に書き遣《おく》れり。
第五
萩薄《はぎすゝき》我が庭に生ふれど、我は在来の詩人の如く是等の草花を珍重すること能はず。我は荒漠たる原野に名も知れぬ花を愛《め》づるの心あれども、園芸の些技《さぎ》にて造詣《ざうけい》したる矮少《わいせう》なる自然の美を、左程にうれしと思ふ情なし。左は言へど敢て在来の詩人を責むるにもあらず、又た自己の愛するところを言はんとにもあらず、唯だ我が秋に対する感の一《ひとつ》として記するのみ。
第六
鴉こそをかしきものなれ。わが山庵の窓近く下《お》り立ちて、我をながし目に見やりたるのち、追へども去らず、叱すれども驚かず、やゝともすれば脚を立て首を揚げて飛去らんとする景色は見すれど、わが害心なきを知ればにや、たゞちよろ/\と歩むのみ。浮世は広ければ、斯《かゝ》る曲物《くせもの》を置きたりとて
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