も》われは生命《いのち》ある霊景と相契和しつゝあるなり。枕頭の燈火、誰《た》が為に広室《ひろま》を守るぞ。憫《あはれ》むべし、燈火は客を守るべき職に忠信にして、客は臥中にあれども既に無きを知らざるなり。燈火よ、客の魂《こん》は魄《はく》となりしかならざるか、飛遊して室中には留《とゞま》らず、女《なんぢ》何《なん》すれぞ守るべき客ありと想ふや。
明また滅。滅又明。此際燈火はわれを愚弄《ぐろう》する者の如し。燈火われを愚弄するか、われ燈火を愚弄するか。人生われを愚弄するか、われ人生を愚弄するか。自然われを欺くか、われ自然を欺くか。美術われを眩するか、われ美術を眩するか。韻。美。是等の者われを毒するか、われ是等の者を毒するか。詩。文。是等の者果して魔か、是等の者果して実か。
燈火再び晃々たり。われ之を悪《に》くむ。内界の紛擾せる時に、われは寧ろ外界の諸識別を遠《とほざ》けて、暗黒と寂寞とを迎ふるの念あり。内界に鑿入《さくにふ》する事深くして、外界の地層を没却するは自然なり。内界は悲恋を醸《かも》すの塲なる事を知りながら、われは其悲恋に近より、其悲恋に刺されん事を楽しむ心あるを奈何《いかに
前へ
次へ
全9ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
北村 透谷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング