事、凡《すべ》てわが論題外なり、いで富山の洞《ほら》に寂座《せきざ》し玉ふ伏姫を観察せむ。
「八犬伝」一篇を縮めて、馬琴の作意に立還《たちかへ》らば、彼はこの大著作を二本の角の上に置けり。其一はシバルリイと儒道との混合躰にして、他の一は彼の確信より成れる因果の理法なり。全篇の大骨子を彼《か》の仁義八行の珠数《じゆず》に示したるは、極めて美くしく儒道と仏道とを錯綜せしめたるものなり。その結構より言ふ時は、第一輯は序巻なり、而して第二輯の第一巻は全篇の大発端にして、其|実《じつ》は「八犬伝」一部の脳膸なり、伏姫の中に因果あり、伏姫の中に業報あり、伏姫の中に八犬伝あるなり、伏姫の後《のち》の諸巻は、俗を喜ばすべき侠勇談あるのみ。
伏姫に対する八房《やつふさ》は馬琴の創作にあらずと難ずるものもあれど、余はむしろ此を馬琴の功に帰するものなり。試みに八房を把《と》りて※[#「てへん+僉」、第3水準1−84−94]察して見む。伏姫を観るの順序に於て斯くするを至当と思へばなり。
八房の前世は、彼の金碗孝吉《かなまりたかよし》に誅せられたる奸婦|玉梓《たまづさ》なり。
「伏姫は此|形勢《ありさま》を
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