月水の絶《たえ》たることを説けり。
こゝにも亦た因果の道法を隠微の中《うち》に示顕して至妙に達せり。月水の絶たるは、仙童に訊《と》ふまでもなく懐胎の徴《しるし》なり。而してこの懐胎は八犬子を生む為にあらずして、その実《じつ》、宿因の満潮を示したるものなり。これよりして強く張りたる弦は弛《ゆる》みはじめたるなり。その体《たい》は人にして其頭は犬なりと云ふは、即ち是れ宿因の絶頂に登りたるを指すにやあらむ。
更に進みて仙童に言はせたる予言の中《うち》に、「今この八《やつ》の子を遺《のこ》せり。八は則《すなはち》八房の八を象《かたど》り。又法華経の巻《まき》の数《かず》なり。」とあるに至りては、明らかに業と法との両者の対峙して、伏姫に臨めるを示し、遂に其宿因よりして却つて八英雄を得るに至らしめたる禍福の理法、益《ます/\》明らかなり。同じ筆意にて成れる文字この後《のち》にも見えたり、曰く「こは不思議や。と取なほして。とさまかうさま見給ふに。数とりの珠に顕れたる。如是畜生発菩提心の。八《やつ》の文字は跡もなく。いつの程にか仁義礼智忠信孝悌となりかはりて。いと鮮《あざやか》に読まれたり。」
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