峭※[#「山+咢」、98−下−12]《せうがく》を陟《わた》る間にあるなり、栄達は羨《うらや》むべきにあらず、栄達を得るに至るまでの盤紆《はんう》こそ、まことに欽《きん》すべきものなるべし。
頂上にのぼり尽きたるは真午《まひる》の頃かとぞ覚えし、憩所《やすみどころ》の涼台《すゞみだい》を借り得て、老畸人と共に縦《ほしい》まゝに睡魔を飽かせ、山鶯《うぐひす》の声に驚かさるゝまでは天狗と羽《は》を并べて、象外《しやうぐわい》に遊ぶの夢に余念なかりき。
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この山に鶯の春いつまでぞ
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とはわがねぼけながらの句なり。老畸人も亦たむかしの豪遊の夢をや繰り返しけむ、くさめ一つして起き上《あがり》たれば、冷水《ひやみづ》に喉《のんど》を湿《う》るほし、眺めあかぬ玄境にいとま乞して山を降れり。
琵琶滝を過ぎ、かねて聞く狂人の様《さま》を一見し、かつは己れも平生の風狂を療治せばやの願ありければ、折れて其処《そのところ》に下《くだ》るに、聞きしに違はず男女の狂人の態《さま》、見るもなか/\に凄《すご》くあはれなり。そが中《なか》には家を理《り》するの良妻も
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