りくだるもの》なれば我軛《わがくびき》を負て我に学《ならへ》なんぢら心に平安《やすき》を獲《う》べし、蓋《そは》わが軛は易《やすく》わが荷は軽《かろ》ければ也」(馬太伝十一章、二十八節より三十節)。
 主は爰《こゝ》に、難くして且つ酷《むご》き多くの他の主《しゆ》に就けるものを招き玉ふ。彼等は重きを負ふて長途を行きたれば痛く疲れてあり。我儕《われら》の主は、わが軛は易くわが荷は軽《かろ》しと宣《のたま》ひて、そのつとめの易く、その荷の軽く、その我儕に為さしむるところの極めて簡易なるを示したまへり。
 人の世に処する、必らず何事の職司《しよくし》を有せずんばあらず、或は命を官に受け、或は業《わざ》に民に就く。その或る者は労少なくして酬《むくい》多く、而して其の功も亦た多し、斯《かく》の如きものに対しては、志願者の数も自《おのづか》ら多からざるを得ず。然るにその或るものは、労多くして得《とく》少なく、之に加ふるに社会に対するの名もあることなし。斯の如き職業に就くものは、他の優等の職業に従ふこと能はざるが故に、止《や》むなく之れを守るものなり。或る職業には、すべてのものに於て欠乏を見ることな
前へ 次へ
全6ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
北村 透谷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング