ものが挑動《いらだ》つ時《とき》の呼吸《こきう》を聞《きい》た事《こと》があるかネ。それはそれは堪《たま》つたもんじやない。
[#ここで字下げ終わり]
とその家庭《かてい》の苦痛《くつう》を白状《はくじやう》し、遂《つい》にこの書《しよ》の主人公《しゆじんこう》、後《のち》に殺人《さつじん》の罪人《ざいにん》なるカ……イ……を伴《ともな》ひて其《その》僑居《けうきよ》に歸《かへ》るに至《いた》る一節《いつせつ》極《きは》めて面白《おもしろ》し。
(五十六頁)人間《にんげん》實《じつ》にくだらぬもの。と、この病者《びやうしや》の吐《は》く言葉《ことば》の中《うち》に大《おほい》なる哲理《てつり》あり。下宿屋《げしゆくや》の下婢《かひ》が彼《かれ》を嘲《あざ》けりて其《その》爲《な》すところなきを責《せ》むるや「考《かんが》へる事《こと》を爲《な》す」と云《い》ひて田舍娘《いなかむすめ》を驚《おどろ》かし、故郷《こきやう》よりの音信《いんしん》に母《はゝ》と妹《いもと》との愛情《あいじやう》を示《しめ》して、然《しかれ》どもこの癖漢《へきかん》の冷々《れい/\》たる苦笑《くせう》を起《おこ
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