しようかい》し、その冷笑《れいしよう》と其《その》怯懦《きようだ》を寫《うつ》し、更《さら》に進《すゝ》んで其《その》昏迷《こんめい》を描《ゑが》く。襤褸《らんる》を纏《まと》ひたる一大學生《いつだいがくせい》、大道《だいどう》ひろしと歩《あ》るきながら知友《ちゆう》の手前《てまへ》を逃《に》げ隱《かく》れする段《だん》を示《しめ》す。
 高利貸《こうりかし》の老婦人《ろうふじん》、いかにも露西亞《ロシア》は露西亞《ロシア》らしく思《おも》はれ、讀者《どくしや》をして再讀《さいどく》するに心《こゝろ》を起《おこ》さしむ。居酒屋《いざかや》に於《お》ける非職官人《ひしよくくわんじん》の懺悔《ざんげ》?自負《じふ》?白状《はくじやう》と極《きはめ》て面白《おもしろ》し。その病妻《びようさい》の事《こと》を言《い》ひて、
[#ここから1字下げ]
「所《ところ》が困《こま》つた事《こと》にア身躰《からだ》が惡《わる》く、肺病《はいびよう》と來《き》てゐるから僕《ぼく》も殆《ほと》んど當惑《とうわく》する僕《ぼく》だつて心配《しんぱい》でならんから其《その》心配《しんぱい》を忘《わす》れやうと思《おも》つて、つい飮《の》む、飮《の》めば飮《の》むほど心配《しんぱい》する。何《なん》の事《こと》アねへ態々《わざ/\》心配《しんぱい》して見《み》たさに飮《の》む樣《よう》なもんで一盃《いつぱい》が一盃《いつぱい》と重《かさ》なれば心配《しんぱい》も重《かさ》なつて來《く》る」
[#ここで字下げ終わり]
何《なん》ぞ醉漢《すいかん》の心中《しんちう》を暴露《ばくろ》するの妙《みよう》なる。更《さら》に進《すゝ》んで我妻《わがつま》を説《と》き我娘《わがむすめ》を談《だん》じ、娘《むすめ》が婬賣《いんばい》する事《こと》まで、慚色《はづるいろ》なく吐《は》き出《い》づるに至《いた》りては露國《ロコク》の社界《しやかい》亦《ま》た驚《おどろ》くべきにあらずや。而《しか》して其《そ》の再官《さいくわん》の事《こと》に説《と》き及《およ》ぶや、
[#ここから1字下げ]
「又《ま》た或時《あるとき》は僕《ぼく》が寢《ね》て仕舞《しま》つてからカテリーナ、イワーノウナは何《なん》だか嬉《うれ》しくて堪《たま》らなくなつたと見《み》えて一週間前《いつしうかんぜん》に大喧嘩《おほげんくわ》した事《
前へ 次へ
全6ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
北村 透谷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング