こと》ア忘《わす》れちまつてア………フ………を呼《よ》んで※[#「口+加」、第3水準1−14−93]※[#「口+非」、第4水準2−4−8]《こうひい》なんぞを馳走《ちそう》しながら荐《しき》りに色《いろ》んな餘計《よけい》を附《つ》けちやア亭主《ていしゆ》の自慢《じまん》をする」
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と女性《じよせい》の無邪氣《むじやき》なる輕薄《けいはく》を笑《わら》ひ、更《さら》に一旦《いつたん》與《あた》へたる財貨《ざいか》を少娘《こむすめ》の筐中《きようちう》より奪《うば》ひて酒亭一塲《しゆていいちじやう》の醉夢《すいむ》に附《ふ》するの條《じよう》を説《と》かしめ遂《つい》に再《ふたゝ》び免職《めんしよく》になりし事《こと》を言《い》ひ、
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唯《たゞ》僕《ぼく》が心配《しんぱい》でならぬは家内《かない》の眼《め》――眼《め》だ。殊《こと》に頬《ほう》が紅《べに》を點《さ》した樣《よう》になつて呼吸《こきう》が忙《せわ》しくなる。僕《ぼく》之《これ》を見《み》るのが實《じつ》に辛《つら》い。先生《せんせい》は家内《かない》と同《おな》じ疾《やまい》のものが挑動《いらだ》つ時《とき》の呼吸《こきう》を聞《きい》た事《こと》があるかネ。それはそれは堪《たま》つたもんじやない。
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とその家庭《かてい》の苦痛《くつう》を白状《はくじやう》し、遂《つい》にこの書《しよ》の主人公《しゆじんこう》、後《のち》に殺人《さつじん》の罪人《ざいにん》なるカ……イ……を伴《ともな》ひて其《その》僑居《けうきよ》に歸《かへ》るに至《いた》る一節《いつせつ》極《きは》めて面白《おもしろ》し。
(五十六頁)人間《にんげん》實《じつ》にくだらぬもの。と、この病者《びやうしや》の吐《は》く言葉《ことば》の中《うち》に大《おほい》なる哲理《てつり》あり。下宿屋《げしゆくや》の下婢《かひ》が彼《かれ》を嘲《あざ》けりて其《その》爲《な》すところなきを責《せ》むるや「考《かんが》へる事《こと》を爲《な》す」と云《い》ひて田舍娘《いなかむすめ》を驚《おどろ》かし、故郷《こきやう》よりの音信《いんしん》に母《はゝ》と妹《いもと》との愛情《あいじやう》を示《しめ》して、然《しかれ》どもこの癖漢《へきかん》の冷々《れい/\》たる苦笑《くせう》を起《おこ
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