》なるものひとり彼ありとせば、心を虚《むなし》うして彼の経綸策を講ずる者、豈《あに》智ならずや。
吾人は聞けり、基督は愛なりと。
吾人は聞けり、基督は今も生けりと。
吾人は聞けり、基督は凡ての人類と共にありと。
凡ての人類と共にあり、限りなきの生命《いのち》を以て限りなきの愛を有する者、基督なりとせば、天地の事、豈|一《ひとつ》の愛を以て経綸すべしとなさゞらんや。紛糾せる人生もし吾人をも紛糾の中に埋了し去らば、吾人も亦た※[#「月+(「亶」の「回」に代えて「面から一、二画目をとったもの」)」、80−上−23]血《せんけつ》を被《かう》ぶるの運を甘んずべし、然れども希望の影吾人を離れざる間は、理想の鈴胸の中に鳴ることの止まざる間は、吾人は基督の経綸を待つに楽しきなり。
博愛は人生に於ける天国の光芒なり、人生の戦争に対する仲裁の密使なり、彼は美姫《びき》なり、この世の美くしさにあらず、天国の美くしさなり、死にも笑ひ、生にも笑ふ事を得る美姫なれども、相争ひ相傷くる者に遭ひては、万斛《ばんこく》の紅涙を惜しまざる者なり。味方の為に泣かず、敵の為に笑はず、天地に敵といふ観念なく、味方と
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