、栄達の中《うち》にも苦悩あるを、敗滅の中にも希望あるを。栄達必らずしも勝つにあらず、敗滅必らずしも敗るゝにあらず、王侯の第宅必らずしも福神を宿すところなるにあらず、茅舎の中、寒燈の下、至大なる清栄を感謝するものもあるなり。今日[#「今日」に白丸傍点]のみ凡《すべ》ての問題の立論点ならば知らず、昨日を知り、又た明日を知るを得ば、勝敗が今日の貧富貴賤を以て断ず可からざる事は明白ならむ。
社界経済の外に吾人を経綸する者あり、吾人は分業の結果を以て甘心する事能はざるの性を有す、吾人は遂に希望を以て生命とするの外あらざるなり。今日[#「今日」に白丸傍点]は吾人の永久にあらず。今日[#「今日」に白丸傍点]は吾人の明日にあらず、言《ことば》を換へて解けば、吾人は今日の為に生きず、明日の為に生くるなり、明日は即ち永遠の始めにして、明日といへる希望は即ち永遠の希望なり。希望は吾人に囁《さゝや》きて曰ふ、世は如何《いか》に不調子なりとも、世は如何に不公平、不平等なりとも、世は如何に戦争の娑婆《しやば》なりとも、別に一貫せるコンシステント(調実)なる者あり。人生のいかに紛糾《ふんきう》せるにも拘《かゝは
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