の美貌を以て妹に誇負するところあらんとす、妹即ち曰く、爾《なんぢ》は躰健かに美形なりと雖、他家に寓して人となれり、我は躰弱く形又た醜くしと雖、祖先の家を守りて暫らくも爰を離れず、誇るべきところ我にあり、何ぞ爾の下にあらんやと。
 姉の頭にはデモクラシー(共和制)と云へる銀簪《ぎんしん》燦然《さんぜん》たり、インヂビヂユアリズム(個人制)といへる花釵《くわさい》きらめけり、クリスチアン・モラリチーも亦た飾られたり、真に之れ絶世の美人なり。而して妹の頭には祖先の血によりて成りたる毛髪の外、何の有るなし。妹の形は悄然たり、姉の面は矯妖《けうえう》たり。妹の未然は悲観的なり。姉の将来は希望的なり。姉を娶《めと》らんか、妹を招かんか。国民よ少しく省みよ、爾の中に爾の生気あらば、爾の中に爾の希望あらば、爾の中に爾の精神あらば、安《いづ》くんぞ此の婚嫁によつて爾の大事を決せんとするを要せむ。この二娘子の一を娶らざるべからずと信ずる勿《なか》れ。止むなくんば多妻主義となりて、この二娘を合せ娶れよ、汝はこの婚嫁によりて爾の精神を失迷せしむべからず、然り、爾に大なる元気(Genius)の存するあり、一夫一妻となるも、一夫多妻となるも、爾の元気に於て若し欠損するなければ、爾は希望ある国民なり。

     (4)[#「(4)」は縦中横] 国民の一致的活動

 凡《およ》そ一国民として欠く可からざるものは、其の一致的活動なり。活動、われは之を心性の上に於て云ふ、政事的活動の如きは我が関《あづか》り知る所にあらざればなり。凡そ心性の活動あらずして、外部の活動あるはあらず、思想先づ動きて動作生ず、ルーソーあり、ボルテールあり、而して後に仏国の革命あり。国民の鞏固《きようこ》なる勢力は、必らず一致したる心性の活動の上に宿るものなり。此点より観察すれば、国民の生命を証するものは、実に其制度に於て、能く国民を一致せしむる舞台あると否とに存せり。何を以て、国民に心性上の結合を与へん。如何なる主義を以て、此の目的に適《かな》ひたるものとせん。如何なる信条を以て、此の目的に合ひたるものとせん。吾人は多言を須《もち》ひずして知る、尤も多く並等《びやうどう》を教ふるもの、尤も多く最多数の幸福を図るもの、尤も多くヒユーマニチーを発育するもの、尤も多く人間の運命を示すもの、即ち、此目的に適合する事尤も多き者なるを
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