文界を動かしき。
 偖《さて》も従来の劇作家を数ふれば、故黙翁あり。学海、桜癡の二家あり、其他小説家中にて劇詩を試みたるものゝ数も尠《すく》なからず。又た劇界の内外より組織せられたる演芸協会なる者もありて、只管《ひたすら》詩人と劇部との間を温かにせんと企てられたりしも、暫時にして其の目的を失ひぬ。
 斯の如く機運は幾度も舞ひ来りて、又幾度も舞ひ去れり。然れども到底遂に来らざる可らざるは、劇界の革命なり。劇界の革命は必らず劇詩界の革命より来る可きが故に、若《も》し来るべしと信ずるを得ば、来るものは劇詩界の革命ならんか。
 今年の秋暮より劇詩界に新らしき風雲生じ来れり。「早稲田文学」の史劇論其の第一なり。然れども此は今日に始まれるにあらず、早稲田氏の劇詩に就きての意見は、従来種々の形して江湖に現はれてありしものを通じて、一貫せる性癖の如き者にて、彼が一時、記実[#「記実」に傍点]の文字にて写実[#「写実」に傍点]と疑はれしも、彼が往々にして理想詩人を退けたるが如き傾ありしも、畢竟《ひつきやう》するに彼が所謂《いはゆる》客観性[#「客観性」に傍点]に癖するの致す所にして、批評家としての彼の本
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