、終《つひ》に説明し尽すべからざるものは夫《そ》れ人生なるかな。
厭世大詩人バイロンが「我は哲学にも科学にも奥玄なるところまで進みしが、遂に益するところあらざりし」と放言し、万古の大戯曲家シヱーキスピーアが「世には哲学を以ても科学を以ても覗《うかゞ》ひ見るべからざるものあり」と言ひたりしも、又た学問復興の大思想家と人の言ふなるベーコンが「哲学遂に際涯《さいがい》するところあらざるべし」と戯れたるも、畢竟《ひつきやう》するに甚深甚幽なる人間の生涯をいかんともすべからざるが為めならんかし。
人生はまことに説明し得べからざるものなるか。好し左《さ》らば、人生は暗黒なる雲霧の中に埋却すべきものとせんか。何物とは知らず吾人の中に、斯《か》くするを否むものあるに似たり。
人の本性を善なりと認めたる支那の哲学者も、人の本性を悪と認めたる同じ国の哲学者も、世界を楽天地と思ひ定めしライプニッツも、世界を苦娑婆と唱へたるシヨツペンホウヱルも、或は善の一側を観じ、或は悪の一側を察し、或は楽境を睥目《へいもく》し、或は苦界を睨視《げいし》したるものにして、是等大思想家の知り得たるところまでは確実なれども
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