録の約翰《ヨハネ》が「われ新らしき天と新らしき地を見たり、先《さき》の天と先の地は既に過たり、海も亦たあることなし」と言ひたる言葉の、空の空にあらざることを実証するの時あらんを。
「信仰個条」彼れ何物ぞ、「繩墨《じようぼく》」彼れ何物ぞ、否な彼等も亦た宇宙の精神の大進歩の道程に於て、何等かの必要に需求せられて出でたるものなり、彼等も彼の唯心論の如く、彼の唯物論の如く、彼の凡神論の如く、相当の敬礼を要求するの権利あるものなり、然れども彼等を崇拝し、彼等を保持し、彼等を以て唯一の標準とせんとするは何物ぞ。聖書を把《と》つて、屑籠の中より古布と古紙とを分つが如く、或は彼を取り、或は此を取り、而して我が取る所の者は、宇宙の大真理に適《かな》へりと妄信し、他の取る所の者は一理の存するなきが如くに誣《し》ゆるもの誰ぞ。咄、思想界に於ける病毒の本源は存して爰にあるなり。己れの取る所を奉信するは善し、己れの取る所を以て、他の取る所を妄排す、是を思想界の藪医術と言はずして何ぞや。夫れ藪医術とは外科の医術を言ふなり、而して其の外科たるは、人間の病原を探りて後に其治術を講究するにあらずして、外部に表はれたる
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