たし》かに其一期を持ちしなり。その第一期に於ては我も有りと有らゆる自由を有《も》ち、行かんと欲するところに行き、住《とゞ》まらんと欲する所に住まりしなり。われはこの第一期と第二期との甚《はなは》だ相懸絶する者なる事を知る、即ち一は自由の世にして、他は牢囚の世なればなり、然れども斯《か》くも懸絶したるうつりゆきを我は識らざりしなり、我を囚《とら》へたるものゝ誰なりしやを知らざりしなり、今にして思へば夢と夢とが相接続する如く、我生涯の一期と二期とは※[#「りっしんべん+(「夢」の「夕」に代えて「目」)」、第4水準2−12−81]々《ぼう/\》たる中《うち》にうつりかはりたるなるべし。我は今この獄室にありて、想ひを現在に寄すること能はず、もし之を為すことあらば我は絶望の淵に臨める嬰児なり、然れども我は先きに在りし世を記憶するが故に希望あり、第一期といふ名称は面白からず、是を故郷と呼ばまし、然り故郷なり、我が想思の注ぐところ、我が希望の湧くところ、我が最後をかくるところ、この故郷こそ我に対して、我が今日の牢獄を厭はしむる者なれ、もしわれに故郷なかりせば、もしわれにこの想望なかりせば、我は此獄室
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