《あきた》らぬ語気を吐けり。我《わが》露伴子の「一口剣《いつこうけん》」を草するや、巧に阿蘭《おらん》を作りて作家の哲学思想を発揮し、更に「風流悟《ふうりうご》」に於て其解脱を説きたる所、余の尤も服する所なり。蓋し女性は感情的の動物なり、詩家も亦た男性中の女性と言ふ可き程に感情に富める者なり。深夜火器を弄《ろう》して閨中の人を愕《おどろ》かせしバイロン、必らずしも狂人たりしにあらざる可し、蓋し女性は或意味に於て甚《はなは》だ偏狭頑迷なる者なり、而《しか》して詩家も亦た、或点より観れば之に似たる所あるを免れず。蓋し女性は優美繊細なる者なり、而して詩家も亦た其思想に於ては優美繊細を常とする者なり、豪逸雄壮なる詩句を迸出する時に於ても、詩家は優美を旨とするものなるを以て、自《おのづか》ら女性に似たるところあるを免れず。其他生理学上に於て詳《つまびらか》に詩家の性情を検察すれば、神経質なるところ、執着なるところ等、類同の個条蓋し数ふるに遑《いとま》あらざる可し。是等の類同なる諸点あるが故に、同性相|忌《い》むところよりして、詩家は遂に綢繆《ちうびう》を全うする事能はざる者なるか。夫れ或は然らむ
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