は悉《こと/″\》く悩死せざるなれ、此恋愛あればこそ、実世界に乗入る慾望を惹起するなれ。コレリツヂが「ロメオ・ヱンド・ジユリヱツト」を評する中《うち》に、ロメオの恋愛を以て彼自身の意匠を恋愛せし者となし、第一の愛婦なる「ロザリン」は自身の意匠の仮物なりと論ぜるは、蓋し多くの、愛情を獣慾視して実性を見究めざる作家を誡しむるに足る可し。
恋愛は剛愎なるバイロンを泣かせしと言ふ微妙なる音楽の境を越えて広がれり。恋愛は細微なる美術家と称《たゝ》へられたるギヨオテが企る事能はざる純潔なる宝玉なり。彼《か》の雄邁にして※[#「車+(而/大)」、第3水準1−92−46]優《せんいう》を兼ねたるダンテをして高天卑土に絶叫せしめたるも、其最大誘因は恋愛なり。彼の痛烈悲酸なる生涯を終りたるスウイフトも恋愛に数度の敗れを取りたればこそ、彼の如くにはなりけれ。嗚呼《あゝ》恋愛よ、汝は斯くも権勢ある者ながら、爾の哺養し、爾の切に需《もと》めらるゝ詩家の為に虐遇する所となる事多きは、如何に慨歎すべき事ならずや。
女性を冷罵する事、東西厭世家の平《つね》なり。釈氏も力を籠めて女人を罵り、沙翁も往々女人に関して慊
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