、後に比較的の失望を招かしめ、惨として夫婦相対するが如き事起るなり。
 女性は感情の動物なれば、愛するよりも、愛せらるゝが故に愛すること多きなり。愛を仕向けるよりも愛に酬ゆるこそ、其の正当の地位なれ。葛蘿《かつら》となりて幹に纏ひ※[#「夕/寅」、第4水準2−5−29]《まつ》はるが如く男性に倚るものなり、男性の一挙一動を以て喜憂となす者なり、男性の愛情の為に左右せらるゝ者なり。然るに不幸にして男性の素振に己れを嫌忌するの状《さま》あるを見ば、嫉妬も萌《きざ》すなり、廻り気も起るなり、恨み苦《にが》みも生ずるなり、男性の自《みづか》ら繰戻すにあらざれば、真誠の愛情或は外《そ》れて意外の事あるに至る可し。而して既に社界を厭へるもの、破壊的思想に充ちたるもの、世俗の義務及び徳義に重きを置かざるもの、即ち彼の厭世詩家に至りては、果して能く女性に対する調和を全うし得可きや。
 夫れ詩人は頑物なり、世路を濶歩することを好まずして、我が自ら造れる天地の中に逍遙する者なり。厭世主義を奉ずる者に至りては、其造れる天地の実世界と懸絶すること甚だ遠しと云ふ可く、婚姻によりて実世界に擒《きん》せられたるが為
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