にわが理想の小天地は益《ます/\》狭窄なるが如きを覚えて、最初には理想の牙城として恋愛したる者が、後には忌はしき愛縛となりて我身を制抑するが如く感ずるなり。此に至つて釈氏をして惑哉肉眼吾今観之、従頭至足無一好也と罵り、又た、其内甚臭穢、外為厳飾容、加又含毒蟄劇如蛇与竜と叫び、更に又た、婦人非常友、如燈焔不停、彼則是常怨猶如画石文云々等の語を発せしめ、東洋の厭世教をして長く女性を冷遇するの積弊を起さしめたり。
婚姻と死とは、僅《わづか》に邦語を談ずるを得るの稚児より墳墓に近づく迄、人間の常に口にする所なりとは、ヱマルソンの至言なり。読本を懐にして校堂に上《のぼ》るの小児が、他の少女に対して互に面を赧《あか》うすることも、仮名を便りに草紙読む幼な心に既に恋愛の何物なるかを想像することも、皆な是《これ》人生の順序にして、正当に恋愛するは正当に世を辞し去ると同一の大法なる可けれ。恋愛によりて人は理想の聚合を得、婚姻によりて想界より実界に擒せられ、死によりて実界と物質界とを脱離す。抑《そ》も恋愛の始めは自《みづか》らの意匠を愛する者にして、対手なる女性は仮物《かりもの》なれば、好しや其愛情益発
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