に因つて更に又た夕に笑はんとす、斯の如きは憫《あは》れむべし、斯の如きは悲しむべし、斯の如きは厭《いと》ふべし、我れつら/\世相を観ずるに、誰か亦た斯の如くならざらむ。娼婦の涕は紅涙と賞《たゝ》へられ、狼心の偽捨は慈悲と称《とな》へらる。友と呼び愛人といふも、はしたなきもつれに脆《もろ》くも水と冷ゆるは世の習ひなり、鷺を白しと云ひ、鴉を黒しといふも唯だ目にみゆるところを言ふのみ、人の心を尋ぬれば、よしなきことを諍ひては瞋恚《しんい》の焔《ほむら》を懐にもやし、露ほどの恨みも長《とこ》しへに解くることなく人を毀《そこな》はんと思ふ。右に行くものゝ袂は左に往くものゝ手に把られ、左に行くものも亦た右に往くものに支へらる。鴿《はと》の面をもてる者に蛇の心あり、美はしき果実に怖ろしき毒を含めることあり、洞に近《ちかづ》けば※[#「虫+元」、162−下−19]蛇《げんじや》蟄《ちつ》し、林に入れば猛獣遊ぶ。二世といふ縁に二世あるは少なく、三世といふに三世あるも亦|尠《すく》なし、まことの心にて契る誓ひは稀にして、唯だ目前の情と慾とに動くも亦たはかなき至りなり、讐と恩とに於て亦た斯の如し。必らず酬《
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