子に箝《は》め、之を権勢者なる世々良伯に寄す。之を小歌に擬し、下宿屋の女主《あるじ》に※[#「にんべん+扮のつくり」、第3水準1−14−9]《ふん》す。著者の眼中、社界の腐濁を透視し、人類の運命が是等の魔毒に接触する時に如何《いか》になる可きや迄、甚深に透徹す。是点より観察すれば著者は一個の諷刺家なり。然れども著者の諷刺は諷刺家としての諷刺なる事を記憶せざる可からず。自然詩人の諷刺は、諷刺するの止むを得ざるに至りて始めて諷刺す。始めより諷刺の念ありて諷刺するにあらざるなり。始めより諷刺せんとの念を以て諷刺する者は、自ら卑野の形あり、宜《むべ》なるかな、諷刺大王(スウィフト)を除くの外に、絶大の諷刺を出す者なきや。
スウィフトの諷刺せし如く、スウィフトの嘲罵《てうば》したる如くに、沙翁も亦諷刺の舌を有し、嘲罵の喉を持《もち》しなり。然れども沙翁の諷刺嘲罵は平々坦々たる冷語の中に存し、スウィフトのは熾熱《しねつ》せる痛語の中にあり。「ハムレット」に吐露せし沙翁が満腔の大嘲罵は、自《おのづか》ら粛厳犯す可からざる威容を備ふるを見れど、スウィフトの痛烈なる嘲罵は炎々たる火焔には似れど、未だ陽
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