實《じつ》に右《みぎ》に述《の》べたる魔力《まりよく》の所業《しよげふ》を妙寫《みようしや》したるに於《おい》て存するのみ。もしこの評眼《ひようがん》をもちて財主の妹を財主と共に虐殺したる一節[#「財主の妹を財主と共に虐殺したる一節」に白丸傍点]を讀《よ》まば、作者《さくしや》の用意《ようい》の如何に非凡《ひぼん》なるかを見《み》るに惑《まど》はぬなるべし。
作者《さくしや》は何《なん》が故《ゆえ》にラスコーリニコフが氣鬱病《きうつびやう》に罹《かゝ》りたるやを語《かた》らず開卷《かいかん》第一に其《その》下宿住居《げしゆくじゆうきよ》を點出《てんしつ》せり、これらをも原因《げんいん》ある病氣《びやうき》と言《いひ》て斥《しりぞ》けたらんには、この書《しよ》の妙所《みやうしよ》は終《つい》にいづれにか存《そん》せんや。何《なん》が故《ゆえ》に私宅教授《したくけふじゆ》の口がありても錢取道《ぜにとるみち》を考《かんが》へず、下宿屋《げしゆくや》の婢《ひ》に、何《なに》を爲《し》て居《ゐ》ると問《と》はれて考《かんが》へる事《こと》を爲《し》て居《ゐ》ると驚《おどろ》かしたるや。何《なん
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