なん》が故《ゆえ》にこの裝飾品《そうしよくひん》を奪《うば》ふは單《たん》に斬取強盜《きりどりごうとう》の所爲《しよい》にして苟《いやし》くも理論《りろん》を搆《かま》へたる大學生《だいがくせい》の爲《な》すべからざるところなるを忘《わす》れしか、是等の凡ての撞着[#「是等の凡ての撞着」に白丸傍点]、是等の凡ての調子はづれ[#「是等の凡ての調子はづれ」に白丸傍点]、是等の凡ての錯亂[#「是等の凡ての錯亂」に白丸傍点]、は即《すなは》ち作者《さくしや》が精神《せいしん》を籠《こ》めて脚色《きやくしよく》したるもの、而《しか》して其《その》殺人罪《さつじんざい》を犯《おか》すに至《いた》りたるも、實《じつ》に是《こ》れ、この錯亂《さくらん》、この調子《てふし》はづれ、この撞着《どうちやく》より起《おこ》りしにあらずんばあらず。而して斯《か》くこの書《しよ》の主人公《しゆじんこう》を働《はたら》かせしものは即ち無形の社會而已なること云を須たず[#「即ち無形の社會而已なること云を須たず」に白丸傍点]。
運命《うんめい》人間《にんげん》の形《かたち》を刻《きざ》めり、境遇《けふぐう》人間《にんげん》の姿《すがた》を作《つく》れり、不可見の苦繩人間の手足を縛せり[#「不可見の苦繩人間の手足を縛せり」に白丸傍点]、不可聞の魔語人間の耳朶を穿てり[#「不可聞の魔語人間の耳朶を穿てり」に白丸傍点]、信仰《しんこう》なきの人《ひと》、自立《じりつ》なきの人《ひと》、寛裕《かんゆう》なきの人《ひと》、往々《おう/\》にして極めて愍《あは》れむべき悲觀《ひかん》に陷《おちい》ることあるなり、之《これ》に加《くわ》ふるに頑愚の迷信あり[#「頑愚の迷信あり」に白丸傍点]、誤謬の理論あり[#「誤謬の理論あり」に白丸傍点]、惑溺の癡心あり[#「惑溺の癡心あり」に白丸傍点]、無憑の恐怖あり[#「無憑の恐怖あり」に白丸傍点]、盲目の驕慢あり[#「盲目の驕慢あり」に白丸傍点]、涯なき天と底なき地の間に[#「涯なき天と底なき地の間に」に白丸傍点]
[#ここから2字下げ]
What a poor wretched creature as I am,
Creeping between heaven and earth.
[#ここで字下げ終わり]
と絶叫《ぜつけふ》するもの、豈《あに》ハムレツトのみならんや。
前へ
次へ
全7ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
北村 透谷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング