《くだ》りたる神使の如きものなることを記憶せよ。野外に逍遙して芬郁《ふんいく》たる花香をかぐときに、其花の在るところに至らんと願ふは自然の情なり、其花に達する時に之を摘み取りて胸に※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]《はさ》まんとするも亦た自然の情なり、この情は底なき湖の如くに、一種の自然界の元素と呼ぶより外はなかるべし、之を打つとも破るべからず、之を鋳るとも形《けい》すべからず、之を抜き去らんとするも能《よ》くすべからず、宇宙の存すると共に存する一種の霊界の原素にあらずして何ぞや。
 恋愛は詩人の一生の重荷なり、之を説明せんが為に五十年の生涯は不足なり、然れども詩人と名の付きたる人は必らずこの恋愛の幾部分かを解得《げとく》したるものなり。而して恋愛の本性を審《つまびらか》にするは、古今の大詩人中にても少数の人能く之を為せり、美は到底説明し尽くすべからざるものにして、恋愛の中《うち》に含める美も、到底説明し得《えら》るまでには到ること能はず、然れども詩人の職は説明にのみ限るにあらずして、説明すべからざる者をその儘に写し出るも亦た詩人の職なれば、詩の神
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