《ぬれ》ゆゑに、菩提|心《ごゝろ》と意地ばりて、嫁入も背《せい》ものび/\の」………と書出《かきいだ》して、お夏に既に恋ある事を示せり、然《しか》れども背ものび/\といふところにて、親々の眼には極めて処女《をとめ》らしく見ゆる事を知らせたり。清十郎(即ちお夏の情人《こひゞと》)が大坂より戻り来りたる事を次に出して、「目と目を合はする二人《ふたり》が中《なか》、無事な顔見て嬉いと、心に心を言はせたり」と有処《あるところ》にて、更に両人の情愛の秘密を示せり。
 然《しかる》に清十郎が沓脱《くつぬぎ》に腰をかけて奥の方《かた》の嫁入支度を見て、平気にて「ハアヽ余所《よそ》には嫁入が有さうな云々《しか/″\》」と言ひしときにお夏が「又ねすり言ばつかり、おんなじ口で可愛やと云ふ事がならぬか、意地のわるい」と言ふ言葉を聞けば、お夏は既に処女にあらずして莫連者《ばくれんもの》か蓮葉者《はすはもの》のいたづらあがりの語気を吐けり。読んでお夏が「我も室《むろ》で育ちし故、母方が悪いの、傾城《けいせい》の風があるのとて、何処の嫁にも嫌はるゝ、これぞ宜《よ》い事幸ひと、猶《なほ》女郎の風を似せ」と云ひ出るに
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