魔道文学者、好《よ》し其始祖には何か抜く可からざる一貫の見識ありたりとせんも、其相続者摸擬者等の文学上の位地を看《み》れば、恐らく遊廓を以て彼等の天園と見做《みな》し、正路を歩むの人を愚物視し、人生の大不調子、大不都合を見るよりも寧《むし》ろ小頑小癖小不調子小不都合の眼を具するを尚び、偏曲|※[#「車+(而/大)」、第3水準1−92−46]弱《なんじやく》なる意気より朴直なる野暮の中に隠れたる美を嘲り、至善至悪に対する妙念は残らず擺脱《はいだつ》し去りて只《た》だ慾火炎上の曲りくねりたる一時のすゞしさを此上なき者と珍重す。夫れ恋愛は花なり、造化の花なり、之を碧玉瓶中に見るよりも墨※[#「土へん+它」、第4水準2−4−68]《ぼくだ》堤上に見るに美の価あり。然《しか》れども去《さつ》て吉野の物さびたる造化の深き峰のあたりに見るに、其美、其妙、塵垢に近き墨※[#「土へん+它」、第4水準2−4−68]の外《ほか》に勝る事幾倍なるを知るべし。何となれば花は元《もとも》と造化《ネーチユーア》の天使なるが故に尊きにて、造化の威厳と妙契とが深ければ深き程、其花の妙は尊きなれ。恋愛も亦た斯《か》くの如
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