小林多喜二

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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)監獄《なか》に

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ずるい[#「ずるい」に傍点]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)とう/\
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「モップル」(赤色救援会)が、「班」組織によって、地域別に工場の中に直接に根を下し、大衆的基礎の上にその拡大強化をはかっている。
 ××地区の第××班では、その班会を開くたびに、一人二人とメンバーが殖えて行った。新しいメンバーがはいってくると、簡単な自己紹介があった。――ある時、四十位の女の人が新しくはいってきた。班の責任者が、
「中山さんのお母さんです。中山さんはとう/\今度市ケ谷に廻ってしまったんです。」
 といって、紹介した。
 中山のお母さんは少しモジ/\していた。

 私は自分の娘が監獄《なか》にはいったからといって、救援会にノコ/\やってくるのが何だかずるい[#「ずるい」に傍点]ような気がしてならないのですが……
 娘は二三ヵ月も家にいないかと思っていると、よく所《しょ》かつの警察から電話がかゝってきました。お前の娘を引きとるのに、どこそこ[#「どこそこ」に傍点]の警察へ行けというのです。私はぎょう[#「ぎょう」に傍点]天して、もう半分泣きながらやって行くのです。すると娘が下の留置場から連れて来られます。青い汚い顔をして、何日いたのか身体中プーンといや[#「いや」に傍点]なにおいをさせているのです。――娘の話によると、レポーターとかいうものをやっていて、捕かまったそうです。
 ところが娘は十日も家にいると、またひょッこり居なくなるのでした。そして二三ヵ月もすると、警察から又呼びだしがきました。今度は別な警察です。私は何べんも頭をさげて、親としての監督の不行届を平あやまりにあやまって連れてきました。二度目かに娘は「お前はまだレポーターか」って、ケイサツでひやかされて口惜しかったといっていました。私はそんなことを口惜しがる必要はない。早く出て来てくれてよかったといゝました。
 娘が家に帰ってくると、自分たちのしている色んな仕事のことを話してきかせて、「お母さんはケイサツであんなに頭なんか下げなくったっていゝんだ。」といゝました。娘はどうしても運動をやめようとはしません。私もあきらめてし
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