。とんでもないものいりだつた。そして又そんな不しだらな「女郎」を家には置けない、とぐわんばつた。お芳は土間に蹴落された。「物置の隅ツこでもいゝから。」お芳は、土べたに横坐りになつたまゝ、泣いて頼んだ。――
 母親のせき[#「せき」に傍点]に、お芳の父が會つたとき、「あれア、もう百姓仕事も出來ねえ、ふにやけ身體になつて歸つてきたんし、手もまツ白くて、小さくなつて……良《え》い穀つぶしが舞えこんだもんだし。――あつたらごとになつて親の罰だべなんす。」と云つた。
 母が「まあ/\」と云ふと、
「なんかえゝごとでもなえべか?」ときいた。母がきゝかへすと、
「あの腹の子んしな。」と云つた。
「お前さん!」母はびつくりした。
 すると、お芳の父は落着きなく、うやむやにして、頭を自分の手で押へて振りながら、歸つて行つた。「俺アは、もうどうもかもはア分《わ》かなくなつたんし。」……
 母親は、源吉に、「無理しねえばえゝが。」と云つた。「あんの調子だら、あぶねえわ。」
 源吉は返事も、相槌もうたず、にゐた。母親は、それから、聲をひそめて、
「よく聞いてみれば、お芳ア、そんなに札幌さ行《え》ぎたい、行ぎた
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