ゐることが出來なかつた。こんな生活でない、もつといゝ、本當の生活があると、いつでも、考へてゐた。何んであるかちつとも分らずに、そればかり考へてゐた。が、今になつて、俺達がどんなところに轉ばうが、轉べるところは決つてゐる、といふことが分つた。分らされたんだ。君はきつと、こんなことを云ふやうになつた俺を笑ふだらう。笑はれても仕方ない人間だ。然し、俺は、俺達皆が一體どんなものであり、どんなことをして居り、それがこの社會にどんな役目と、待遇をうけてゐるものであるか、かういふことを、こゝへ來てから初めて知るやうになつた。百姓も、このことは分らなければならないことだ。こゝには、こつそり[#「こつそり」に傍点]、さういふことを研究してゐる人達がゐるんだ。俺も一寸顏を出すやうになつてから、ぼんやりながら分りかけてきた。そして、俺はびつくりしてゐる。この世の中が大變なからくり[#「からくり」に傍点]から出來てゐるといふことを初めて知つた。そして、そのどれもこれもが、皆、「俺達の」頭に成る程とピン/\くるものだ。
 が、それはいづれ、詳しく書くつもりだ。そつちではどうして暮してゐる。もしなんなら、手紙を書
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