澄んだ水のやうに綺麗な空氣だ。空氣のなかには毛一本程のゴミも交つてゐない。働きながら、歌もうたへる。晝には、畑の眞中に、仰向けになつて、空を見ながら、ぼんやりしてゐたり、晝寢も出來る。ところが、どうだ、こゝは! 俺はこの工場の中を、君に知らせたいのだ、然し、どう知らせていゝのか俺には一寸出來ない。まるで、それに比らべたら、場末のグヂヨ/\した大きな「塵《ゴミ》箱の中で」働いてゐると云つてもいゝ。工場の中は、暗くて、臭くて、ゴミがとんで、ムツとして、ごう/\として、……お話にならない。仕事が終つて出てくるものは、眞黒い顏をして、眼だけを光らして酒に醉拂つた人のやうに、フラ/\してゐる。
こゝに働いてゐる人達は、百姓のやうに、貧乏はしてゐても、何處かがつしり[#「がつしり」に傍点]したところがなくて、青白くて、病身らしくて、いつでもセキ[#「セキ」に傍点]をしてゐる。俺は、そのことを考へて、暗い氣持になつてゐる。石狩川の大平原にゐた方が、と、きまりきつた愚痴が、此頃出かゝつてゐる。本當のところ、其處の生活も亦いゝものではないが。
俺は、村にゐたときから、君とちがつて、どうしても落付いて
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