「表おツか[#「おツか」に傍点]ねえで。んに、寒いわ。」半分泣き聲で由が云つた。
「よし/\、うんと、そつたらごとせ。」
母親は床を三つ敷いた。
「なア源ん、校長先生あれきつと、――あれだ。飛んでもない事云ふもんだ。本氣に聞くなよ。うん。」床をしきながら、母がさう云つた。
源吉は、芋を喰ひあきると、火箸をもつたまゝ、爐の中を見てゐた。火箸で、火のオキ[#「オキ」に傍点]を色々に、ならべてみたり、崩してみたり、しばらくさうしてゐた。
由と母親が寢てしまつた。
源吉は爐の側にある木をとつてくべた。それからそれが一しきり燃え終るまで、すゝけた青銅の像のやうに、坐つてゐた。ランプも石油がなくなつてきて、だん/\焔が細くなつてきた。
「源、まだ起きてたのか。燃料《たきもの》たいし[#「たいし」に傍点]だ。――寢かされ。」
母親が眼をさまして、一寸枕から顏をあげて、こつちを見ながら云つた。源吉は火も、もう燃え殘りしかなくて、自分が寒くなつてゐたのに氣付いた。
「うん。」さう云つて、立ち上つた。……
後の窓に、大きな影になつて、源吉の身體がうつつた。
「なんまんだ、なんまんだ、――。」ブ
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