たら、それは幸福かも知れない。――然しこんな処が世界の何処を探がしたって、無いこと位は分りきったことだ。
 都会にいればよく分ることだが、大工場では生活に必要な品物をドンドン作り出している。それが大洪水のように農村を目がけて、その隅々も洩らさずに流れ込んで行く。そうなって来れば、もう土間にランプを下して、縄を編んだり、着物を織ったりしていたって間に合わなくなってしまう。追ッ付くものでない。――北海道では何処だって、出稼ぎは別にして、冬の内職などするものがなくなってしまっているではないか。
 百姓は、だからどんなものでも買わなければならなくなる[#「買わなければならなくなる」に傍点]。――で、要るものは金だ。百姓が金を手に入れる道はたった一つしかない。出来上ったものを売ることだ。――ところが、世界中で一番もの[#「もの」に傍点]を下手糞に売るものは百姓だ。
 健ちゃも知っているだろうが、村で都会の商品市場がどう変化しているか、又こう変化しそうだから売るとか、売らないとか、秋にそんなことを考えて売ったりする百姓が一人でもいるか。どうして、どうしてだ。
 三年前に、青豌豆の値が天井知らずに飛
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