自分の室から女給を呼ぶ。そして肩をもませた。皆は自分に順番のくるのをどうすることも出来ず、ただ待っているばかりだ。嫌なら出て行け、然し出て行ける「金の持っている」女なら、最初からそんな処に来る筈がない。みんな家の暮しのために、村から出てきた、云わば俺達と同じ仲間なのだ。――中には、落着いて髪を直しながら、ドアーから出てくるものもある。然し大抵外へ出るなり、ワッと泣き出してしまう。見ていられないそうだ。岸野は来る度にキマッてそうした。
岸野が一体[#「一体」に丸傍点]どんな事をしているのか、百姓達は、ちっとも知っていない。――ここに来て、それが始めて分った。阿部さんに紹介されて来た人達は、ここで労働問題などを研究している。俺は何も分らなかったが、すすめられて出ている。出てよかった。俺は色々のことをそこで知った。
百姓のことでは、特別に皆から聞いた。百姓というものは、今のこの世の中では何処迄行っても、――行けば行くほど惨めになるものだ、という事を知った。
仮りに百姓が自分の田畑を持っていて、小作料を払うことも要らず、必要なものは全部自分の家でこしらえ、物を売ることも、買うこともなかっ
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