に外へ立った。
「阿部さん、俺も一生ケン命やるから、何か用でも出来たら、させてけないか。」
 健は興奮を抑え、抑え、阿部の顔を見ないで云った。――たったそれだけのことで、健は言葉が顫えそうでならなかった。
「そうか、そうか! 頼む!」
 上気した頬に、冷えた夜気が心よかった。――秋だった。歩きながら、彼は何か声を出したかった。
「待ってろ、待ってろ、俺だって!」
 何度も独言した。

     やもめの「勝」

 道路を折れると、やもめの「勝」の家だった。長い雨風で、ボロボロに腐れ切ったヨロヨロの藁小屋で、風が強いと危いので、丸太二三本を家の後へ支え棒にしていた。――四五年前に夫に死なれてから、一人で稼いでいた。それから一年に一人ずつ、お互いに少しも顔の似ていない子供を三人生んだ。誰が父親か分らなかった。――色々な男がこっそり勝の家へやってきた。勝はそれで暮しを立てていた。――村の娘等は少し年頃になると、(例えばキヌなどのように)札幌、小樽へ出て行ってしまう。自分の母親達のように、泥まみれになって、割の悪い百姓仕事をし、年を老《と》る気にはなれない。それで村の若い男は幾つになっても、仲
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