ないので、「残念ながら、ドンツキは出来ない。」
「若しか岸野ばしたら、どうだべ。」――一人がいたずらに云った。
「岸野か、そうだな……。」
「そんな手荒なこと、なんぼ岸野さんだってな……。」
 荒川はだまってきいていた。
「あれだら、仲々我ん張るど。」
「あの面《つら》だものな!」
「そんな事……馬鹿だな……。」
「なんぼ岸野だって、こっちは兎に角人数は多いんだからな。」
「ハハハハハ、今度いくらでも実験できる時来るさ。」
 荒川は愉快に笑った。
 荒川は何時でも警察に尾行《あと》をつけられたり、何回も刑務所へブチ込まれたりしながら、この方の運動をしていた。――健もそれは聞いていた。然し、どうしてこんなに呑気そうに、愉快でいることが出来るんだろう。――健にはそれは分らなかった。
 ロシア革命前と後とで、ロシアの百姓はどういう風に変ったか、それが百姓本来の要求にどんなにピッたり合ったか。――そういう話をきくと、自分達が実際にやっている生活のことで、しかも誰もがそれと気付かなかったことが、ハッキリしてきた。
 次の朝は早いし、家が遠いので、健は中座した。
「小便たまった。」
 阿部がついで
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