かっていた――背が粟立つほど、底寒かった。

 健達の、このS村は、吹きッさらしの石狩平野に、二、三戸ずつ、二、三戸ずつと百戸ほど散らばっていた。それが「停車場のある町」から一筋に続いている村道に、縄の結びこぶのようにくッついていたり、ずウと畑の中に引ッ込んでいたりした。丁度それ等の中央に「市街地」があった。五十戸ほど村道をはさんで、両側にかたまっていた。
 平原を吹いてくる風は、市街地に躍りこむと、ガタガタと戸をならし、砂ほこりをまき上げて、又平原に通り抜けて行った。――田や畑で働いていると、ほこりが高く舞い上りながら、村道に沿って、真直ぐに何処までも吹き飛ばされて行くのが見えた。
 どっちを見ても、何んにもない。見る限り広茫としていた。冬はひどかった。電信柱の一列が何処迄も続いて行って、マッチの棒をならべたようになり、そしてそれが見えなくなっても、まだ平であり、眼の邪魔になるものがなかった。所々箒をならべ立てたような、ポプラの「防雪林」が身体をゆすっていたり、雑木林の叢が風呂敷の皺のように匐っていた。
 S村の外れから半里ほどすると、心持ち土地は上流石狩川の方へ傾斜して行っていた。
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