ども、――御馳走するどころか、そんな風で案外これア敵かたきでないかと思ってネ。」
 と云って、大声で笑った。――「この辺はどうです。僕の村あたりだと、毎年のように小作争議が起りますよ。何処だって村は困っているし、又困って行く一方ですからね。――ネ、何時か僕等が附剣して、この村へワアッて、やって来ることでもあるんじゃないかと思ってネ……。」
「まさか!」思わず皆で笑い出した。
 後で、フトこの話を健が阿部にした。
「それア本当だよ。」と阿部が考え深そうに云った。「あんまり内地で、所々に農民騒動が起るんで、今度の演習だってその下稽古かも知れないど……。」

 次の昼頃、ラッパの音が聞えると、皆村道に出て行った。
 お恵は髪を綺麗に結い直して、由三を連れて出た。畦道を縄飛びをする時のように、小刻みに跳躍しながら走った。
 村を出て行くラッパの音は、皆を妙に興奮させた。それを聞いていると、何か胸が一杯になった。足並の揃ったザック、ザックという音と一緒に埃が立った。二日でも自分の家に泊った兵隊が通ると、手を振っている。
「あらあら、俺れアの兵隊さん!」
 眼ざとい由三が見つけると、姉の手を引張っ
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