ろがあるぞ。」
「あれか、鄙にもまれなる……」
「……埋合せか。」
声を合わせて笑い出してしまった。
健は暗がりの納屋の中にいて、一人でカアーッと赤くなった。
健は昨日からのお恵の燥《はしゃ》いだ、ソワソワした態度にムカムカしていた。
兵隊が起きると、由三は金盥に水をとってやったり、下駄を揃えてやったり、気をきかして先きへ先きへと走り廻った。お恵は日焼けのした首に水白粉を塗っていた。塗ったあとが、そのままムラになって残っていた。
飯はお恵が坐って給仕した。すると、由三が口を突がらした。
「兵隊さんに女《めっけア》なんて駄目だねえ。――俺やるから、姉どけよ!」
兵隊は苦笑してしまった。
母親は又昨夜のように、御馳走のないことをクドクド繰りかえした。
昼過ぎから土砂降りになった。六時頃、兵隊は身体中を泥だらけにして帰ってきた。――ものも云えず、一寸つまずいただけで、そのまま他愛なくつんのめる程疲れ切っていた。――母親はそれを見ると、半分もう泣いていた。兵隊にとられるかも知れない健のことが直ぐ考えられた。
その晩は最後であり、それにゆっくり出来ると云うので、健は母親に云いつ
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