ていた。
田を踏みにじられた隣りの農場の小作が、壊れた瀬戸物でもつなぎ合わせるように、田の中に入って行って、倒れた稲を起しにかかった。――健にはそれは見ていられなかった。
「下稽古かも知れないど」
兵隊の泊った朝、由三は誰よりも先きに起きた。――吃驚《びっくり》したようにパッチリ眼を開けて、家の中をクルックルッと見廻わすと、ムックリ起き上ってしまった。前の日に磨いて立てかけて置いた銃や剣や背嚢の前に坐ると、独言を云いながら、ちょッぴりちょッぴりいじった。魚が餌《えさ》でもつッつくように。
母親が起きてきた。――母親は吃驚して、いきなり、由三の耳をひねり上げた。
「これッ! 大切なものさ手ばつけて、おがしくでもしてみれッ!」
健は眼をさましたまま、寝床にいた。――前の夕方、健が納屋から薪を取り出していたとき、すぐ横で、井戸の水をザブザブさせながら足を洗っていた兵隊が話しているのを聞いた。
「ここの家ヒドイな……」
「うん、ま、御馳走はないな――」
「それでも……」
あと一寸聞えなかった。息をつまらせて笑っている。
「シャンだからな。」
「それに……な、色ッぽいとこ
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