じり取られるそのままの酷《むご》たらしさだった。
「何するだ!」
「何するだ! 稲※[#感嘆符二つ、1−8−75] 稲※[#感嘆符二つ、1−8−75]」
 然し兵隊のワアッ、ワアッという声に、それはモミ潰されてしまった。士官は分っていて、号令をやめなかった。――もう百姓は棒杭のように、つッ立ってしまうよりない!
 ようやく「休戦ラッパ」が鳴った。
 兵卒達はそれでも稲を踏まないように、跳ね跳ね田から出てきた。
 士官は汗をふきながら、プリプリして、
「後で主計が廻ってくるんだから、その時申告すれアいいんだ。」
 それは分っている! 然し損害を受けただけを申告すれば、その度に「これを種にして儲けやがるんだろう。」「日本国民として、この位の損害をワザワザ申告するなんてあるか。」と云われる。「帝国軍人のためだと云って、申告しない百姓さえあるんだぞ。」そんな事も云う。――貧乏な、人の好い小作人はどうすればいいか?――小作料を納める時になれば、地主はそんなことを考顧さえもしてくれない。
 兵士達はそれ等の話を気の毒そうに、離れてきいていた。――矢張り小作人の伜達がいるんだろう、健はそのことを考え
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