ワアッて行けば、何んしろ……」
 皆に聞えるように、わざと声を高めた。
 兵隊は歩きづらい砂地を、泥人形のような無恰好さで、ザクザク歩き出した。だまりこくって、空虚に眼を前方の一定のところにすえたきり、自分のではない、何か他のものの力で歩かせられているように、歩いていた。病人を無理に立たせて、両方から肩を組み、中央《まんなか》にして歩かせた。が、他愛なく身体がブラ下ってしまった。頭に力がなく、歩く度にグラグラッと揺れた。
 皆はゾロゾロ堤を引き上げた。雑木林の中から、その時だった、突如カン声が上った。帽子の色のちがった別な一隊が、附剣をして「ワアッ、ワァッ!」と叫びながら、さっきの兵隊の後横へ肉迫していた。――不意を喰ってしまった。立ち直る暇もなく、そのまま隊伍を潰して、横へそれると、実りかけている田の中へ、ドタドタと入り込んでしまった。見ている間に、靴の下に稲が踏みにじられてしまった。
「あ、あッ、あ――あッ、あッ!」
 田の向うに一かたまりにかたまって見ていた小作人が、手を振りながら夢中に駈けて来るのが見えた。健達も思わず走った。――百姓達には、それは自分の子供の手足を眼の前で、ね
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