までしていた。――日蔭になっているところには、上半身を裸にして、仰向けに寝ているものが二三人いる。どの兵士も胸の中にがっくり頭を落したり、横になったり――皆ぐったりしていた。然し顔だけは逆上せたように、妙に赤かった。それが気になった。汗が上衣まで通って、背の出張ったところ通りの形にグッショリ濡れていた。
「どうしたんだべな。」
「追《ぽ》われて来たんだべよ。――見れ、弱ってる!」
不意に、あまり遠くない処で銃声がした。雑木林から吹き上げられたように、鳥の群が飛び立った。続いて銃声がした。――と、上官らしいのが列外へ出て、何か号令をかけた。ガジャガジャと金具の音が起った。が、皆はどうにもならない程、疲れ切っていた。
「グズグズしちアいかん! グズグズしちアいかん!」
上官がカスれた声で怒鳴った。
「やっぱり兵隊って、ええものだね。――ラッパの音でもきいたら、背中がゾクゾクしてくるからな。」
健の隣りで話している。――「青島」で右手がきかなくなってから、働くことも出来ず、半分乞食のような暮しをしている「在郷軍人」だった。
「戦争だって、考えたり、見たりする程おッかねえもんでねえんだ。
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