に眠かった。
母親は思い切り悪く、何時迄も枕もとでクドクド云っていた。それを、うるさい、うるさいと思ってききながら、何時の間にか又眠っていた。
「ハッ、兵隊さんだな」
裏の畑のそばで、由三が蹲んで、
「日本勝った、日本勝った、ロシア負けたア……」
「日本勝った、日本勝った、ロシア負けたア……」
枝切れで蟻穴をつッついていた。
「赤蟻、露助。黒蟻、日本。――この野郎、日本蟻ばやッつける積りだな。こん畜生。こん畜生!」
ムキになって、枝の切れッぱしで突ッつき出した。
「こら、こら、――こらッ!」
遠くで銃声がした。由三はギクッと頭を挙げた。――続いて又銃声がした。由三は枝ッ切れを投げ捨てると、いきなり表へ駈け出した。眼をムキ出して駈け出した。
「ハッ、兵隊さんだな!」
「何するだ、稲が、稲が※[#感嘆符二つ、1−8−75]」
昼頃、宿割をきめる軍人と役場の人がやってきた。健達は「青年訓練所」から演習の見学のために、一日だけ参加しなければならなかった。――軍人と辛苦をともにして、如何《どん》な難事にも耐える精神を養うのだ、というのだ。危い、危い、健は然
前へ
次へ
全151ページ中67ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小林 多喜二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング