石を蹴ったりして歩いていた。
「のべ源」
「どうだ、健ちゃ。」後からのッぽの「のべ源」が声をかけた。
「あのどっちでもええ、一晩抱いて寝たらな。」
「何んだ、お前今迄かかって、そったら事考えていたのか。」
健は、初めて、ムカッムカッと云った。
「それんか他にあるか。」ニタニタ笑った。
のッぽの「のべ源」をS村の小作達は、時々山を下りて来る「熊」よりも恐ろしがっている。飲んだら「どんな事」でも平気でした。馬鹿力を出すので、どの小作だってかなわない。「のべ源」の乱暴をとめようとして、五、六人泥田に投げ込まれてしまった事がある。それに女に悪戯した。
酔いがさめると、手拭で頭をしばって、一日中寝た。
「俺ア何アんもしねえど。俺ア――俺だけア何んもしねえど!」
きまって、そう云いながら唸り続けた。
健とは不思議に気が合った。――毎日の単調さ、つらい仕事、それで何処迄行っても身体の浮かない暮しをさせられていれば、誰だって若い男[#「若い男」に傍点]は「のべ源」になる。ならずにいられるものでない。皆、心の隅ッこに「のべ源」の少しずつを持っているんだ。健はそう考え、「のべ源」に
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